”営業マンが営業活動を行う時には、顧客のニーズや問題を把握してそのニーズを満たしたり問題を解決したりするような提案を行う”といった手法は定石のように耳にしていると思います。このように取引先が抱えている課題や問題点に対しての解決策を提案し、それを実現するような商品やサービスを営業するのが「ソリューション営業」です。
実際客先に出向き一生懸命ヒアリングして、顧客に対して様々な提案を行って成功しているでしょうか?ソリューション営業では成果を出せない企業もあると思いますが、そういった場合は営業手法を変える必要性が生じます。今回はそのソリューション営業とは異なる手法の一つであり、最新の営業手法と言われる「インサイト営業」をご紹介します。インサイト営業は変革指向型の営業手法とも言われていますが、どのようなものなのかを事例をもとに詳しくまとめていきたいと思います。
目次
インサイト営業とは
インサイトとは直訳すると「洞察」「物事を見抜く力」などを意味します。そして、ビジネスシーンでは「人を動かす隠れた心理」という意味で使われます。顧客自身気づいていないが、行動を起こすトリガーになっている要素です。 例えば、ダイエットしたい顧客が持つインサイトの一つとして考えられるのは、「確実に・短期間で痩せたい」です。「確実に・短期間で」というのは、多くの人にとって無自覚な欲求でした。このインサイトに対して価値提供を行って成功したのが、RIZAPです。 つまり、インサイト営業とは「顧客が自身でも気づいていない潜在的な課題(=トリガー)を顧客より先に察知して、その課題を解決する方法を提案する」営業方法です。 そして、これからの時代に営業力を上げていくためには、インサイト営業が不可欠です。ソリューション営業からインサイト営業へ
ハーバード・ビジネス・レビュー誌の2012年12月号(日本版)には「ソリューション営業は終わった」といったタイトルの論文が掲載されました。この論文の著者はマネジメントシンクタンクであるコーポレート・エグゼクティブ・ボード社のディレクター3名であり、1400社以上のB2B顧客をリサーチしたデータから分析され執筆されています。この中で著者は顧客の顕在化された要望に応えるという受動的な営業手法ではこれからの時代は生き残れないと述べています。 例えば90年代の初めにIBMがコンサルティング事業を始めた時、「問題解決技法 CPS」というIBMが開発した手法を使い企業の問題やニーズを解決へと導いてきました。IBMはこのCPSスキルを持った自社のSEをコンサルタントして派遣していましたが、顧客が成熟し自らソリューションできる段階になった時にニーズを失ってしまいました。「ソリューション営業」に価値が認められなくなったのと同様の現象が起こったのです。 「ソリューション営業は終わった」が執筆された2年後の2014年、同じ著者が「ソリューション営業からインサイト営業へ」という論文を新たに発表しました。ここで紹介されている「インサイト営業」とは、従来のソリューション営業に代わる変革指向型の営業です。 ソリューション営業が衰退した背景を考察すると、顧客状態の変化があげられます。 以前の顧客は「自社の課題や問題を認識しているがその解決策までは把握していない」という状態でした。しかし自社内の調達部門や購買部門の進化によって、今は多くの企業が「ソリューションを把握している」状態にあります。 IT技術の発達や情報化社会の進化も情報収集スピードを高めました。顧客は自分たちがどのような問題を抱えていて、どうやって解決すればよいのかを知っているのです。このような状態の顧客へいくら解決提案型のアプローチを試みても無意味です。世の中の全ての会社の状態が変化している訳ではなく、変化の渦中にあると言えます。しかし変化を把握し営業スタイルも先回りしていかなければ取り残されていくことになるでしょう。インサイト営業の実践方法
では、どのようにインサイト営業を行っていったらよいのかいくつかポイントをまとめてみます。1. 顧客の経営理念やビジョンを深く理解する
「顧客すら気づいていない顧客の課題」を見つけるのは困難を極めるように思えます。それを見つけ出す鍵が企業の経営理念やビジョンにあります。経営理念やビジョンを実現するためにはどのようにしたらよいのかを提案することでインサイト営業を活用していきます。顧客の理念やビジョンに耳を傾け、その実現に向けたアイデアを一緒に創り上げます。その過程でニーズに合わせた提案を行っていくことが可能となります。2. 顧客に「売る」スタンスを捨てる
顧客に先回りするような営業スタイルでは、顧客以上に顧客のことを考えなければ成果は出ません。そのためには「顧客を想う」スタンスに移行しなければいけません。それには一つ一つの案件を丁寧に扱い時間を取ることも必要になってきます。インサイト営業とは実は労力と時間がかかる手法なのです。すべての顧客に時間を割くわけにはいきませんから、ターゲットを絞り込み明確にすることが重要になってきます。3. 顧客にイノベーションを提案する
インサイト営業とは自ら変革を起こしていく能動的なスタイルです。これは「新しいものを生み出す」、「創出する」、「革新」というイノベーションとも密接な関係にあります。顧客自身が考えてもいなかったような斬新なアイデアで顧客の心を掴むにはイノベーションが不可欠だからです。 電通グループが配信している「電通報」では「イノベーション・アイデアの創出のために」という記事で次のように解説しています。これからは、顧客コミュニティ(人)を中核に、共有された目的実現に向けて共に価値を生み出していく“動詞のブランディング”が欠かせません。顧客が共感できるような価値を提示し、体験され、満足情報がソーシャルメディアを通じて拡散していくことで、ブランド価値が高まっていきます。引用:https://dentsu-ho.com/articles/302 電通報では顧客が共感できるような価値はわくわくするもものだと言っていますが、「英語で読み解くドラッカー『イノベーションと起業家精神』」の著者である藤田勝利も同じく“ワクワクすることがイノベーションのきっかけとなる”と述べています。同時に”イノベーションはすでにあるものの組み合わせ”で創ることが可能とも言っていますが、身近なものから顧客が共感しわくわくできるものを掘り起こしていくことがポイントと言えます。