商品戦略のプロセス解説step3:「コンセプト設計」

今回は、商品戦略のプロセス解説の第3ステップとなる「コンセプト設計」について解説します。ここではコンセプト設計の具体的手法やメリット、実際どのように活用されているについてまとめていきたいと思います。

コンセプト設計とは

コンセプトとは「基盤となり、一貫させる主張(テーマ)」のことです。コンセプト設計では全体の元となる基本的な考え方を決めていきます。事業においては「だれに、何を、どのように」を決めることです。もう少し具体的に言うと「どの消費者をターゲットにするのか」「消費者にどのような商品を提供するのか」「何の目的で売るのか」を決めていきます。コンセプトには商品コンセプトと事業コンセプトの2種類があります。

商品コンセプト

顧客に提供する商品やサービスのコンセプトです。先に商品コンセプトを作ってから商品を開発していきます。商品コンセプトはお客様視点でコンセプトを作る必要がありますが、顧客の視点に立つ魅力的な商品とは次のような図式であらわされます。

魅力的な商品コンセプト = 「特徴」+「強み」

特徴とは、保証制度、流通、プログラムなどで他社が行っていないサービスやシステムのことです。
強みとは他社よりも優れている「品質」や「実績」です。

例)コスパも業界No1! 50人の栄養士が厳選して作った体に優しく健康的なダイエットメニュー

この中で「50人の栄養士が厳選して作った」「優しく健康的」という部分が特徴です。そして「業界No1のコスパ」が強みです。

 

事業コンセプト

事業コンセプトとは「事業の概要」のことです。事業コンセプトがある場合には商品コンセプトより事業コンセプトが優先されて、ネーミングや商品デザインがされることになります。事業コンセプトを設計する際は、自社の強みを知る必要があります。現在の強みを理解することは、事業展開を行なってターゲットを広げるのに役に立ちます。コンセプト設計を行うことによって、どのようなターゲット層に対し、何を提供していけるのか事業の方向性も決めることができるのです。

 

アイディアを生み出す6つの原則

コンセプトを生み出すのは「アイディア」です。ただアイディアを出すだけではなく、「消費者に響くアイディア」を生み出す必要があります。『アイディアのちから』の著者であるスタンフォード大学のチップ・ハース教授とダン・ハースの兄弟はよいコンセプトを生み出すアイディアの6原則を次のように定義しています。これらの原則は要素の頭文字をとってSUCCESsを言われています。

SUCCESs

原則1 単純性(Simple) 分かりやすく単純明快であることは相手の心に響きやすい

原則2 意外性(Unexpected) 常識にとらわれない意外性で相手の興味を引き付ける

原則3 具体性(Concrete) 具体的だと相手が理解しやすい

原則4 信頼性(Credible) 信頼性があることでアイディアが指示されやすい

原則5 感情性(Emotional) 感情と結びつくことで相手の記憶に焼き付く

原則6 物語性(Story) 絆、挑戦、創造性といった物語性で心に響かせる
コンセプト設計をする際はこれらの原則に沿って進めていきます。広告業界の実験でも、これらの原則で生み出されたコンセプトは消費者から高い支持や関心を集めたことが実証されています。原則を一つずつ掘り下げてみましょう。

単純性

アイディアは単純明快にすべきです。特に顧客へのキャッチコピーやプレゼンにおいてだらだら長い文言は核心がぼやけてしまいます。商品の魅力を単純に一言で言い表せると本質を訴えることができます。そのためには無駄をそぎ落としアイディアをシンプルにまとめる必要があります。例えばユニクロのヒートテックのキャッチコピーも次のように変更されています。

・変更前:体の水蒸気を吸着して発熱する繊維と、何重もの空気の層で熱を逃さない

・変更後:自動的にずっと暖かい

後者の方がダイレクトに機能やポイントが頭に残ります。

意外性

相手の興味を引き付け記憶に残りやすいアイディアには意外性があります。トランジスタラジオの開発で一世を風靡したSONYは「ポケットに入るラジオ」というアイディアを掲げました。当時ラジオは台に置いて聞くもので誰もポケットに入れるという発想はありませんでした。単に性能のいいトランジスタラジオを作ります、では何の意外性もありません。ラジオをポケットに入れるという点が常識を覆しヒットを生み出しました。

具体性

アイディアは曖昧さを避けて誰にでも具体的に分かるようにしなければいけません。例えば「優れた技術」という表現では何に優れたものなのか伝わってきません。エンジン性能を10%高めた技術というように具体的な数値などを用いるようにします。

信頼性

アイディアが素晴らしいものでも信頼性がなければ受け入れてもらえません。信頼性を持たせるには統計的なデータや数値を用いたり、著名な研究者によって証明されたというような権威のある事実を持ち出したり、細部のディテールを細かく説明すると効果的です。

感情性

感情に訴えることは時に理論に勝ることがあります。人の感情を揺さぶり共感を呼び覚ますようなアイディアを工夫します。

物語性

そのアイディアに物語性があると消費者の心に深く刻まれます。断片情報の集まりでなく、1つのストーリーとして成立すると、長期の記憶に残りやすくなります。

コンセプト設計のメリット

日本初のエアバッグを開発した小林三郎氏は日経テクノロジーのインタビューの中で「まずコンセプト、技術はその次だ」と語っています。

最終的な目標(実現したい価値)と、最初の攻め口、目標にたどり着くためのアプローチ、必要な要素技術の特定とその開発など考えることは山ほどある。

こうした課題を一つ一つ潰し、イノベーションを成功させるには熟慮を重ねるしかない。そして、課題を潰すための突破口になるのが、コンセプトなのである。

引用:http://techon.nikkeibp.co.jp/article/FEATURE/20120629/225955/?rt=nocnt:
ここで語られていることを要約すると、コンセプト設計は最初の目標から達成までに生じる課題を解決する突破口を開くとあります。イノベーション的な商品開発にとどまらず、一般的な事業を始める際などもコンセプト設計を行うことで次のようなメリットを得ながら問題を解決していくことができます。

・具体的な投資判断が分かり無駄な投資を避けられる
・ターゲットを明確にしてターゲットに合わせた商品を開発していく
・何を大切にしていきたいか一貫性を持ってサービスにあたれる
コンセプト設計の意義はそれぞれの職業でも様々ですが、あらゆる業種でメリットをもたらします。以下でコンセプト設計をする際の事例を2つ紹介します。

ウェブサイトの場合

ウェブサイトや企業の顔である「ロゴ」を制作する際も最初にコンセプト設計を行います。まずは企業が訴えたいテーマや企業の強みなどの情報を収集します。そしてどのようなターゲットに対してどのようなコンテンツを提供するかを決めます。ウェブサイトには色々な形態があるので、ターゲットのトレンド動向に合わせたサイトを制作します。

クリニック開業の場合

クリニックを開業する場合にも、「どのような特徴を持ったクリニックにしたいのか」「自分の理想とするクリニックは?」「どのような患者様に来てもらいたいのか?」といったコンセプト設計を行っていきます。最初のコンセプトがあることで、必要とするクリニックの広さや機材、立地などの条件を絞っていけます。

最後に

コンセプト設計はビジネスの展望を広い視点で捉え、アイディアを方向性に結び付けていきます。アイディアの生み出し方や一連の設計にはスキルやノウハウも必要になってきます。自社のリソースを効果的に活用するためには、アイディアとしてのコンセプト選定、コンセプトの絞り込み、コンセプトの改良といった設計部分はノウハウに精通したコンサルティングなどに頼むことも戦略のひとつです。

おすすめの記事