法人営業では売り上げ拡大のために既存顧客への営業戦略が、新規開拓営業以上に大事になってきます。データベースを用意してターゲットを絞り込んで営業しても、ターゲットの数には限界があります。効率の面からも既存客へのアプローチが有効であることをこの記事では詳しく解説します。またアプローチにはどのような手法があるかも併せて具体的な内容を説明していきます。
既存顧客へアプローチするメリット
経営学者であるドラッカーは会社の売上の8割はリピーター、つまり既存顧客から生まれると言っています。会社の利益拡大のためには既存顧客へのアプローチは必須です。既存顧客へのアプローチがもたらすメリットは次のような経済の法則でも説明できます。
・既存顧客へアプローチする場合の経費は新規顧客へのアプローチの1/5(1:5の法則)
・20%の大口顧客が売り上げの80%を担っている(80:20の法則)
1つ目は「1:5の法則」と言われるマーケティングの法則です。費用対効果の観点からは既存顧客へのアプローチが効率的であることを説いています。2つ目はイタリアの経済学者パレートが提唱し別名「パレートの法則」とも呼ばれる経済活動の有名な概念です。この法則では、最も重要なポイントは何であるかを見据え重要点に絞り込んで活動することが大切であるとされます。80%の顧客からの売上をアップさせるよりも、上位20%の顧客からの売上をアップさせる方が効率的なのです。
売り上げの大半をしめるような購買力のある20%の主要顧客がなんらかの原因で離れてしまった場合、利益を大きく減らしてしまうことになります。企業が永続して利益をだしていくための営業戦略において、20%の大口の既存顧客に最も重要点をおき、アプローチとフォローをおこたらず行っていく必要があります。
アプローチ不足で生じるデメリット
既存顧客へのアプローチをおこたるとリピートしてくれなくなり取引の休止が起こったり、商談は取り付けても受注に結び付かなかったりなどデメリットが生じます。適切なアプローチ(接触)を行うことは営業において非常に重要なことです。
アプローチの種類
既存顧客のランク分け
アプローチに入るために必要なプロセスがあります。前項では最も重要なポイントは何であるかを見据え重要点に絞り込んで活動することが大事であると説明しましたが、「重要な既存顧客=売り上げの多い顧客」というのは単純すぎます。もう少し異なる観点から顧客をセグメント分けする手法を説明します。
RFM分析による顧客プロット
RFM分析とは、顧客一人ひとりを「直近の購入日(Recency)」「購入頻度(Frequency)」「累積購買金額(Monetary)」の指標でセグメント分けし、それぞれのセグメントごとに、そのセグメントに合わせたマーケティング施策を講じる手法です。例えばRMが高いと優良顧客の可能性が高いが、Fが低いとよそに離れつつある可能性があるというように分析できます。
顧客のランク分けのイメージは上の図のようになります。このようにRMFによってランク分けができたら取るべきアプローチが明確になります。
① RもFもMも高い安定優良顧客
→より満足を与えて定着し続けてもらうアプローチ
② Fの低い、離れつつある優良顧客
→頻度の高いリピーターになってもらうためのアプローチ
③ RやMの高い新規の優良見込み顧客
→安定顧客になってもらうためのアプローチ
このようにターゲットを分類して、ターゲットに応じてアプローチする営業戦略をたてていくことが大切です。RFM分析には欠点もあり適切に利用するには、PDCA(plan-do-check-act)サイクルと一緒に利用することが必須です。施策に対する効果測定を常に定量で行なうフローをしき、仮説が正しいかどうか検証します。次の項ではターゲットに応じた営業戦略をご紹介します。
既存顧客への営業戦略
新規顧客層
信頼関係を築き優良客へ育成する
既存顧客の中でもたまにしか購買してくれない層と、頻繁に売り上げに貢献してくれる優良客の層とがあります。既存客からの売り上げ拡大のためには、たまにしか購買してくれない層から優良客を増やしていく必要があります。お客様に優良客になってもらうためには、満足度を高めてもらうための適切なフォローをしていく必要があります。
例えばCRM(カスタマーリレーションシップマネジメント)と呼ばれる顧客情報を管理するためのシステムを導入し、長期的にロイヤリティを持ってくれる優良顧客を育てていきます。ロイヤリティを持ってくれるとは自社への愛着を持ってもらうことです。そのためのステップを支援してくれるのがCRMですが、導入しても求める成果をだせない企業も多くあります。その原因はCRMに精通したマーケティング担当がいないことや、導入に必要な営業体制が整っていないのにシステムだけ入れてしまってうまく機能しないことがあげられます。
定着していない顧客層、離れつつある優良顧客層
適切な接触でリピート率を高める
1度は商品やサービスを購入してくれても2回目以降のリピートに繋がらないケースもよくあります。なぜリピートされなかったのかという主な原因はアプローチ不足のため忘れられてしまったか、もしくは不適切なアプローチを行ってしまったかです。
アプローチ不足のケースでは、定期的にコンタクトをとることで購買をリマインドしていきます。しかし多くの営業マンが顧客視点でコンタクトを取らずにただ売り込むことに必死になり失敗してしまいます。例えば新商品を案内するメルマガをどんどん送り付けるなど、一方的な売り込みは不適切なアプローチにつながります。顧客視点に立つこととは、顧客の有益な情報を提供したり、顧客のニーズにこたえたりというアプローチです。「適切な接触」と言葉でいうと簡単ですが、実際のアプローチは顧客心理をよんだ綿密なプロセスが必要になってきます。
安定顧客層
アップセル/クロスセル戦略を使う
既存顧客の中でも複数回購入履歴があるなど、ある程度の取引のある顧客ランク層の場合は売り上げ拡大のために「アップセル/クロスセル」戦略を使います。「アップセル」とは、購入している商品やサービスをより単価の高いものに移行してもらう営業活動です。一方「クロスセル」とは関連する商品も一緒に組み合わせて購入してもらえるよう営業することです。そういった層に対しては、アップセル/クロスセルによって利益率や平均単価を上げることが可能です。
定期的に購入してくれる安定顧客層は自社の製品やサービスについてある程度の知識があり、会社への愛着も持ってくれている場合が多い層です。顧客によりニーズに合わせた商品の特長を説明し、高単価のものや関連する商材を勧めると営業効果が期待できます。しかし気を付けないと利益を上げたいための押し売りと捉えられ、離反を招いてしまう危険性もあります。
紹介営業戦略
安定した関係が築けている優良顧客層には、知りあいの企業を紹介してもらう「紹介営業」という営業方法を用いることも可能です。紹介してもらえればまったくの新規営業に比べて成約率が高いメリットがあるので、積極的に取り入れたい営業戦略です。
ただし紹介をしてもらうには顧客満足度を十分に高めることはもちろん、相当の信頼を勝ち取る必要もあります。顧客満足度を上げたり、信頼関係を築いていったりというのは、商品の質だけでなく、営業マンの質や人柄、営業の進め方など属人的な要素も関わってくると思われている部分です。しかし正しい「営業プロセス」で進めていけば、営業マンの素質に左右されずに、組織的に成果をあげることができます。必要な時に必要なフローを敷く「営業プロセス」のノウハウは、外部に委託して管理してもらうことでも十分に機能します。
最後に
顧客と長期的に良好な関係性を築くことができれば、アップセル/クロスセルによる単価アップや売り上げ拡大、新規開拓営業コスト削減、紹介による販路拡大などさまざまなビジネス効果が期待できます。一方で優良顧客の維持管理は綿密なマネジメントが必要となります。プロセスを管理するためのシステムや自動化するためのツールも発売されていますが、それらを導入して成果をだすにはやはりマーケティングとITに精通した管理者が必要となります。経験豊富で知識のあるコンサルタントにこのマネジメントの部分を任せることが結果的に見て一番効率もよく、大切な優良顧客を維持できるコツといえます。